解決する課題
農作物の増産を阻む、害虫の薬剤抵抗性・土壌の劣化・水不足
世界の人口増加に対応するため、農作物の増産が急務
世界の人口は開発途上国を中心として大幅な増加が見込まれており、2050年には96億人、2000年からの50年間でみると1.6倍になると推計されています。それに伴う食料需要は、2000年の45億トンから2050年の69億トンまで55%増加すると見込まれ、穀物については、2000年に比べて12億トン、生産量を65%増加させる必要があります。
一方、収穫面積は1960年代からほぼ横ばいで、1人当たりの収穫面積は減少傾向で推移。中長期的には、地球温暖化、水資源の制約、土壌劣化等が食料増産の不安要素となってきています。
(出典:農林水産省/世界の食料の需給動向と我が国の農産物貿易 イ 食料需給をめぐる今後の見通しより)
人の開発スピードを凌ぐ速さで適応する、雑草や害虫の「薬剤抵抗性」
農薬を使用すると「薬剤抵抗性」を持つ雑草や病原菌・害虫が現れ、たちまち農薬が効果を失ってしまう現象が繰り返されています。しかも自然界の対応スピードは人の開発力よりはるかに速く、不毛な戦いの様相を呈しています。まさに、ヒトと「自然界のいたちごっこ」と言えます。
化学肥料の使用による「土壌の劣化」
即効性のある化学肥料は、農作物に不足している栄養分をピンポイントに与えられるため土地の生産性は飛躍的に向上。しかし一方で化学肥料に偏り過ぎると、土壌内の特定の栄養分が過剰または不足に。土壌の劣化が進み、結果的に生産性が落ちてしまいます。
国際連合食糧農業機関(FAO)の「世界土壌資源報告」によると、侵食、塩類集積、圧密、酸性化および化学物質による汚染で、世界の33%もの土地が「ある程度」または「非常に」と言えるほどまでに劣化。これ以上肥沃な土壌が失われれば、食料生産と食料安全保障にも大きなダメージを与えてしまいます。その結果、食料値段が乱高下し、何百万人の人々を飢餓と貧困へと追いやることが予想されます。
過剰な地下水汲み上げによる「水不足」
20世紀以降、機械化が進み、大量の地下水が農業用水として利用されるようになりました。その結果、持続可能なレベルを超えた地下水の汲み上げが行われ、農業を危機に陥れています。
現在、世界の食料生産の40%は地下水を使った灌漑に頼っており、「帯水層」と呼ばれる地下の貯水層の水量が急速に減少しています。最新の研究(※)によると、今世紀半ばには、インド、パキスタン、ヨーロッパ南部、米国西部の広い範囲で帯水層が枯渇する可能性あり、利用できる地下水の量が半減。農業生産高はおよそ6%減少すると推測されています。
※:地球物理学分野での世界最大の学会AGUによるレポート「地下水の持続可能性の評価と、インドの地下水枯渇を誘発する要因の特定について」
Assessment of Groundwater Sustainability and Identifying Factors Inducing Groundwater Depletion in India – Nair – 2021 – Geophysical Research Letters – Wiley Online Library
米国科学アカデミー発行の機関誌『米国科学アカデミー紀要』(PNAS)によるレポート「米国のハイプレーンズとセントラルバレーにおける地下水の枯渇と灌漑の持続可能性」
Groundwater depletion and sustainability of irrigation in the US High Plains and Central Valley | PNAS, 他